子どもと平和の委員会

『かわいそうなぞう』は“ノンフィクション絵本”ではなかった ~「こどもの本・九条の会」学習会報告~

(子どもと平和の委員会)
『かわいそうなぞう』は“ノンフィクション絵本”ではなかった
~「こどもの本・九条の会」学習会報告~
 
3月21日、「こどもの本・九条の会」主催の学習会に参加した。
“なぜ『かわいそうなぞう』が問題なのか?~今、戦争児童文学を問い直す~”と題して、児童文学評論家・研究家の長谷川潮さんによる講演だった。40人ほどの規模だったが、児文協の会員をはじめ読書運動の方や紙芝居関係、図書館司書、出版社など幅広い方が参加され、密度の濃い充実したひとときとなった。
 講演に先立ち、主催者あいさつに立ったきどのりこさんは、出版フォーラムの集会で、登壇した青年が、子どもの頃『かわいそうなぞう』に感動して戦争反対の気持ちが育ったと発言したことが、今回の学習会のきっかけになったと説明した。きどさんは、「この本に多くの問題 が含まれていることを知らない人が多い。今日は、早くからこの本の問題点を指摘してきた長谷川潮さんにお話をうかがい、戦争児童文学の全体的な問題についても語り合いたい」と話された。
 長谷川さんは、ご自身で調査・収集された資料から、国内の空襲年表や上野動物園の歩み、『かわいそうなぞう』発行から普及の足跡などの年代を対比しながら解説され、次の3つの問題点をあげられた。
①空襲がひどくなったので動物たちを処分した、と書かれているが、上野動物園で猛獣が殺害された1943年(昭和18)は国内に空襲はない。
②だれがどういう判断で殺処分などという残酷なことを命じたのかが不明。
③ 空襲で動物が暴れ出して民衆に被害を与えるから危険、というが、戦時中にそういう理由だけで動物を処分するのか。もっと他の理由があるのではないか。
資料としてあげられた空襲年表によると、猛獣の殺害が実行された1943年には日本国内への空襲は全くなく、翌年6月から北九州、佐世保などが空襲されている。東京への空襲が繰り返されるのはこの年11月24日からだ。それから翌45年元日までは、毎日のように東京空襲が繰り返される。1月は3度の空襲ですんだものの、2月16日からはまた連日のように空襲があり、3月10日の東京大空襲に続いていく。年表と照らして見ると、まるで、それを予知していたかのような殺処分ということがうなずける。
ノンフィクション絵本と謳いながら、でたらめで意図的に作り上げられたシナリオ。国策で動物を殺し、「かわいそう」と子どもの感性に訴えることで子どもの戦意高揚を図ったことも考えられる。この絵本はその後必読図書に選定され、教科書に掲載され、マスコミでももてはやされてベストセラーになっていった。
秘密保護法や安保関連法が成立し、あっという間に施行されている。目に見えない大きな力で感動が作り上げられ、作品や作家が利用されていったかつての事実が、また繰り返されないとも限らない。空恐ろしさを感じるとともに、真剣に、慎重に向き合いたいと、気持ちを新たにした。(茂木ちあき)
 
2016/04/02